円満な手続き事例

遺言書・任意後見契約

A子さん(64歳)は、中度の知的障害の娘B子さん(35歳)を持つシングルマザーです。3年前までは、A子さんの母C子さんが家にいて、家事やB子さんの面倒を見てくれていましたが、そのC子さんが亡くなったあとは、B子さんを障害者支援施設に入所させて仕事をしていました。しかし、A子さんも来年、職場を定年退職することになるため、またB子さんと一緒に暮らそうかと考えています。

ただ、A子さんが心配なのは、自分が元気なうちは娘の世話もできますが、将来を考えると今のうちから準備しておけることはないか?と考えています。

A子さんの財産

①自宅の土地建物

②預貯金 金2000万円

A子さんの家族関係

A子さんの希望

A子さんが認知症などになった時の支援の手だてをしておきたい。

A子さんに何かあったときに、B子さんのサポートをしてくれる体制を整えておきたい。

A子さんには、兄弟や従兄弟などの近しい親族がいないことから、サポートは信頼できる第三者を紹介してもらいたい。

解決策

任意後見契約

A子さんの将来に備えて、司法書士2名と「任意後見契約」を結びました。これで、A子さんが認知症などによって、判断能力が低下した場合に、入院や介護施設との入所契約であったり、金銭などの財産管理を任意後見人が行うことにより、B子さんの生活費の支給なども滞ることなく、出来るようになります。

見守り契約

将来の任意後見人と関係を続けるために「見守り契約」を結んで、生活状況の変化や来るべきときのために、定期的にお会いするようにしました。

死後の事務委任契約

A子さんの死亡後の葬儀のこと、各種届け出、入院費の精算などの事務手続きも頼むことにしました。日頃つきあいのない、親族などの手を煩わせたくないというA子さんの希望です。

遺言書の作成

自分の死亡後は、自宅は売却して現金化したうえで、全ての財産をB子さんに相続させる旨の公正証書遺言書を作成しました。遺言執行者には、A子さんと任意後見契約をした司法書士を指定しました。B子さんは、独りで生活することは難しいので、現金として相続させた方がよいと判断したからです。

B子さんの成年後見開始申し立て

B子さんがA子さんに万一あった後でも安心して生活できるように、成年後見人の選任を申立ました。最初の後見人は、A子さんと任意後見契約をした人以外の司法書士とA子さんの2人体制にしました。A子さんが、元気なうちから専門家後見人に関与してもらうことで、B子さんの生活状況やA子さんの任意後見が発効した場合にも、途切れることなくA子さんB子さんのサポートを続けることが出来ると考えたからです。

A子さんの判断能力が衰えたら・・・
任意後見契約の発効

あらかじめ頼んでおいた契約内容に基づき、任意後見人がA子さんの生活を支援します。同時に、家庭裁判所が選任した任意後見監督人が、任意後見人が契約内容に従って支援しているかを厳しくチェックすることになります。

成年後見人の退任

B子さんの後見人であったAさんは、任意後見の発効により、A子さんの成年後見人を辞めることになりますが、もうひとりの職業後見人の司法書士がB子さんのサポートを継続していきます。

A子さんが死亡したら・・・
遺言書の実行

A子さんの遺言書に基づき、不動産の売却とその他全ての財産がB子さんへ引き渡されます。

死後の事務委任契約の実行

契約に基づき、A子さんの葬儀や各種届出等を実行されます。

 

 

遺言・家族信託

会社経営者のXさん(76歳)は、若い時から苦労をして、今の運送会社を大きくしてきました。経営も安定して、そろそろ社長を長男Tさんに譲り、会長職に退こうかとも考えています。Xさんは現在会社の株式の全部を所有しています。

Xさんの家族は、20年前に死別した妻との間に、長男Tさんと長女のOさんの二人と、その後再婚した妻Yさん(60歳)がいます。

Xさんの財産

①会社の株式10000株

②自宅の土地建物

③現金3,000万円

Xさんの家族関係

Xさんの希望

会社は、長男Tに継がせ、その後も長男の子M(孫)に継がせたい。

相続の際は、長男Tには一部の現金を、長女には住宅を購入する際に相当の資金を贈与しているので、相続はなし。長女も承諾済み。

私が亡くなった後、妻の住居のことや生活費のことが心配なので、自宅、現金を相続させたい。会社の株式は、配当金があるので、妻の生活資金としたいが、妻は会社の経営のことは分からないことと、妻が亡くなった後の株式は、妻方の兄弟が相続することになると不都合が生じることになる。これは自宅についても同じ問題が残る。

できれば、妻が亡くなった後の株式と自宅は、長男Tそして孫Mへ引継ぎたい。

解決策

1.家族信託の設定

Xさんの財産のうち、①株式820株②自宅の土地建物について、委託者X、受託者T法人(Tを代表者とする一般社団法人を設立)、受益者Xとする信託契約を結ぶ。その中で、Xの死亡により、第二次受益者として妻Yを指定する。但し、株式の受益権については、収益受益権を妻Y、議決指図権付の元本受益権を後継者の長男Tに取得させることとする。また、妻が亡くなった場合の第三次受益者は、長男T、第四次受益者は、孫Mと指定した。

2.公正証書遺言の作成

信託財産以外の財産の分配については、公正証書遺言を作成した。遺留分に配慮して妻1,000万円、長男2,000万円、長女には生前に贈与しているので、相続はないということも忘れずに書添えた。

効果

家族信託の設定によって、株式は、Xさんが元気なうちは、議決指図権を持ち、会社の経営を見守ることができ、配当もこれまでどおり受け取る。亡くなった後は、妻Yには配当を、長男Tには会社の議決指図権を持たせることで、社長として会社経営の安定を図ることが出来ます。また、妻の死亡後の受益者を孫Mまで指定することで2代先までの会社後継者を、Xさんが決めることができるのです。

自宅の土地建物については、Xさんの死亡後も、妻が安心して住み続けることが出来、妻が亡くなれば、妻の相続人ではない、長男Tへの引き継ぎも、信託契約で決めておくことが出来ます。